庭の日当たりが悪いというお悩みがありますが、一般的な造成地に建物を建てる場合、だいたい建物の日当たりを優先するので日当たりの悪い部分は庭になります。日当たりの良い庭が作れるのは、南側道路の敷地やとても広い敷地の場合だけで、普通は日当たりが悪いものです。しっかりとした目的をもって作り込めば大きなコストをかけずに楽しい庭づくりが可能です。
今回は日当たりが悪くても楽しめる庭づくりの方法と遊び方を紹介します。
目的を決めて日当たりの悪い庭を上手に楽しむ
日当たりの悪い庭を上手に楽しむためには、まず「庭に何を求めるか?」を考えてみると良いと思います。
庭の目的を考える
庭の目的は
- 部屋からのビューを楽しむ(景観としての庭)
- 子供の遊び場・物干し場(機能としての庭)
- 家族や友人とバーベキューしたい・ティータイムを過ごしたい(リビングとしての庭)
- ガーデニングを楽しみたい・家庭菜園(園芸のための庭)
といったことだと思います。これらの要素を複合的に求めているのが一般的で、それぞれのご家庭で比重の置き方が異なります。それが個性になりますので自分らしく楽しめる庭にしていきましょう。
庭づくりの計画をする
庭づくりの計画では何を考えれば良いのかを、お手本で見てみましょう。
日当たりの悪い庭と聞いて思い浮かべたのは京都の町屋の坪庭です。
和風だからというわけではなく、庭を考えるのにどこを考えたら良いかという要素がそろっているので選んでみました。
知っておきたい庭のデザインの6つの要素
庭のデザインは料理に例えられます。
野菜や肉や魚などの食材、そして煮たり焼いたりいためたりする料理方法、その両方を知らないと料理は作れません。
庭づくりも、素材やアイテムを知るだけでなく、どんな作り方があるか、その両方を知ることで目的に合った庭づくりが可能です
写真はジモスムさんからお借りしました。
こんな庭にしたいというイメージを作るためには庭づくりの要素を知ることが大切です。
上の写真からは背景、額縁、シンボルツリー、アイストップ、敷材、グランドカバーの6つの要素を見ることができます。
これを今計画中の家に置き換えてみます
何とか6畳ほどの大きさの空間を確保しました。
背景:ブロックの上に明るい色のパネルフェンス
額縁:隣家の2階窓からの見下ろしの視線を避けるパーゴラ
シンボルツリー:冬にイルミネーションが似合う形に刈り込んだイチイの木
アイストップ:ガーデンファニチャーの椅子テーブル、菜園用プランター、ハンギングプランター
敷材:防犯敷砂利、タイルテラス
グランドカバー:イワダレソウなど
を配置してみました
日当たりが悪い庭でも全く日が当たらないケースは少ないものです。下の動画のように南側に2階建てのある家の庭にも季節や時間帯によって日が差すことがあります、うまく生かすようにしていきたいものです
1. 背景
隣家の窓やドアが見えていると、お互いに気持ちが良いものではありません。
フェンスや塀を好みに合わせて工夫していきましょう。
生垣やスタージャスミンなどの蔓性植物を生垣状に仕立てるのもおすすめです。
2. 額縁(トリミング)
庇や窓枠で部屋の中から見える範囲を制約します。町家の例だと、向かいの2階の窓に洗濯物が干してあっても気になりません。軒やパーゴラやすだれなどで視界をトリミングすることを意識すると独自の世界を作ることが可能です。南側隣家から見下ろされるのが気になる場合には、パーゴラで目隠しできるように工夫すると良いでしょう。物干しの機能を用意することも考えられます。
3. シンボルツリー
シンボルツリーで検索すると沢山の木がヒットします。耐陰性を調べて、ご家族みんなで好きな木を選んで植えましょう。大きい木は高価なので小さな木を植えて家族と一緒に育っていくのを楽しむことをお勧めしています。
耐陰性のあるおすすめシンボルツリー
耐陰性のあるおすすめシンボルツリーは、ツバキ、ゲッケイジュ、イチイ、シラカシなどの常緑広葉樹です。
ツバキは木に春と書くように、さみしくなりがちな冬の庭で花を咲かせてくれて元気がもらえます。
学名は「カメリア」で中国や西洋で魔除けの効果があるとされ、茶庭には必須の樹木です。椿の花にはさまざまな色と形があります、花の色や形にこだわって選んでください。「侘助」や「西王母」など、名前にこだわるのも楽しいです。
ゲッケイジュは「月桂冠」を作る木で、葉は乾燥させるとローリエになります。
ローリエを知らない方でも、カレー屋さんでカレーを食べたときに時々入ってくる葉っぱといえば思い出す方もいらっしゃるのではないでしょうか。庭木の葉を洗って乾燥させて料理に使えるというのはとても楽しいことです。気分がすぐれないときに葉をちぎって嗅ぐとすっきりするので魔除けの意味が分かるような気がします。
イチイの木は冬に赤い実がなります。実のなる木は庭を華やかにしてくれます、小鳥が来てくれるのも楽しいでしょう。
ほかにも、シマトネリコやヤマボウシなどは今人気の樹種で半日陰でも育ちます。
シマトネリコは暖地に向いており、日当たりの良い場所だとすぐに成長しますので半日陰くらいの方が良いかと思います。
木の幹の形を見せると美しい樹木です。葉を茂られすぎてモジャモジャにしないように剪定していくことがコツです。
ヤマボウシはハナミズキの仲間ですっきりした姿が人気です。
ハナミズキよりも耐陰性があるようで、5〜7月に花を付けます。白い花弁のようなものは花ではなく総苞片というものでその中央に小さな花を咲かせます。
避けた方が良い樹種
人気のあるオリーブ、ハナミズキ、シャラなどは残念ですが日当たり良いところを好むので日当たりの悪い庭には不向きです。ただ庭だけでなく、玄関先など日当たりの良い場所を探して鉢植えを置くのもおすすめです。敷地の日当たりを確認しながら楽しみましょう
4. アイストップ
茶庭だと蹲(つくばい)や灯篭(とうろう)が定番ですが、洋風の庭だとキャラクターの石彫やベンチやプランターなどでも良いと思います。
ポイントはアイストップの名の通り視線を向ける先を用意することです。南側隣家が気にならないように、低めのところに置くと良いでしょう。
5. 敷材
町家の例では敷材が枯山水の砂利に建物の足元が三和土(たたき)になっています。敷材は石だけではなく洋風ではウッドチップやレンガなどもおしゃれに仕上がると思います。下地に砂利や除草シートで草が生えないようにすることをおすすめします。建物の足元はテラスやウッドデッキにすればもう一つのリビングとして使うことが可能です。
6. グランドカバー
木の足元などにコケや背の低い植物などを植えると余計な草が生えなくなります。後半に「グランドカバーに使いたい草花」という項目を設けましたのでご参照ください。
庭を充実させる菜園におすすめの作物
人生を楽しくするアイテムとしておすすめなのが菜園です。庭はバルコニーより広い屋外の土のあるスペースです。これを手に入れたのですから楽しまない手はありません。ここではおすすめの作物やその特徴を紹介します。
耐陰性のある作物
耐陰性のある作物はフキ、ミョウガ、三つ葉、ニラ、シソ、ミントなど香りを楽しめる作物が多いです。
夏の暑い日の食欲がないときによく冷えた冷やっこはうれしいものです。これらを育てていれば、ちょっと庭から青じそやミョウガを摘んできてのせると食欲が増すものです。その香りに生きていてよかったと感じることでしょう。そんな小さな喜びを積み重ねることが豊かに過ごすコツだと思います。
青じそは5月ごろにホームセンターで2~3ポット買ってくれば、ひと夏楽しむことができます。地植えでもプランターでも栽培できます。
ミョウガは地下茎で繁殖するので一回植えれば何年も楽しむことができます
ニラも一度植えたら数年おきに株分けすればずっと収穫できるようにできます。
半日陰でも育つ作物
半日陰であればイチゴやジャガイモのほかホウレンソウやネギなども栽培できます。
つる性植物
キューリやゴーヤもうまく日当たりの良い方に誘引すれば育てられるようです。
キューリやゴーヤで成功したらスイカの空中栽培も試してみてください。お子様の食育にも是非おすすめです。
園芸のコツは作物の生命力を信じておおらかに見守ることだと思います。
日当たりが悪くても生垣にできる木
日当たりが悪くても生垣にできる木は、ツバキ、サザンカ、カナメモチ、イヌマキ、トキワマンサクといったところです。
サザンカやトキワマンサクは花も楽しめますが日当たりが悪いと花付きが悪くなるのが残念です
つる性植物スタージャスミンの生垣
つる性植物のスタージャスミンを支柱に誘引して生垣状にするのを「ジャスミンヘッジ」といいます。「ヘッジ」というのは株の用語だと思っていましたが「つなぎ」という意味もあるのだそうです
スタージャスミンは和名テイカカズラです。小倉百人一首の選者の藤原定家の名前がついている植物です。ウイキペディアには、
“和名は、式子内親王を愛した藤原定家が、死後も彼女を忘れられず、ついに定家葛に生まれ変わって彼女の墓にからみついたという伝説(能『定家』)に基づく。“
という雅なような怖いような伝説があります。伝説が出来た理由が分かるような美しい香りを楽しむことができます。ハツユキカズラやゴシキカズラはテイカカズラの園芸種だそうです。木が木であるだけでなくこのような物語があると楽しみも増えると思います。
グランドカバーに使いたい草花
庭の方角や周辺環境のせいで日当たりが悪い庭でも、日陰に強い植物を選べば、ガーデニングを楽しむことができます。ただ、日陰にも複数のタイプがありますので、日当たりの悪い庭でガーデニングをする場合は、庭の状況をよくチェックしてから育てる植物を選択しましょう。
ここでは日陰の種類を4タイプに分け、それぞれの環境におすすめの植物をご紹介します。
1.ほとんど日が当たらない日陰におすすめの植物
周辺の建物に遮られ、時間帯を問わず日が当たらない日陰の庭で育てるなら、ヒューケラやこごみなどを選ぶのがおすすめです。
ヒューケラは常緑性の多年草で、耐陰性・耐寒性ともに高く、ほとんど日の当たらない場所でも色とりどりの葉を元気につけてくれます。
こごみはシダ類の一種で、日当たりの良い場所に植えると葉焼けを引き起こすことから、日当たりの悪い庭のガーデニングにうってつけの植物といえます。
2.半日陰におすすめの植物
日の当たらない時間が長いものの、時間帯によっては日が差し込む場所を「半日陰」といいます。
半日陰の庭で育てるなら、さまざまな色・形の花を咲かせるインパチェンスや、穂先にピンクや赤、白色のふわふわとした花をつけるアスチルベなどを選ぶのがおすすめです。
どちらも耐陰性が高く、日陰でも育ちますが、短時間でも日の当たる場所に植えた方が花つきがよく、見栄えも良くなります。
3.湿った日陰におすすめの植物
あまり日が当たらず、かつ土の中に多くの水分が含まれている庭では、バンダやアジサイなど、湿気を好む植物を育てるのがおすすめです。
バンダとはランに分類される多年草で、中心から左右に葉を広げ、紫色や濃いピンク、白色などの花をつけるのが特徴です。
アジサイは梅雨時期の観賞用植物として有名で、土壌によってさまざまな色の花を楽しめます。
4.乾いた日陰におすすめの植物
あまり日が差さない上、家の屋根や庇の影響で雨も当たらず、土が乾いている庭では、セダムやカポックなどの観葉植物を育てるのがおすすめです。
セダムは多肉植物の一種で、茎や根っこに水分を貯蓄できる性質を持っていることから、乾燥した場所でも元気よく生長します。
カポックは葉を放射状に伸ばす大きめの観葉植物で、日陰・乾燥ともに強い耐性を持っています。
どちらも水が完全に切れると落葉するので、土の表面が乾いたタイミングで水やりするのがポイントです。
【まとめ】
敷地の中で家の日当たりを優先すると庭は日当たりが悪くなりがちです。日当たりが悪いからと諦めてしまわないで、もう一つの部屋というつもりでしっかりと使い方を考え、ご家族が庭に望むものを明確にしていくと楽しい庭づくりになると思います。
建物の完成引き渡し後の作業になることが多いので、時間をかけて楽しみながら進めることをおすすめします。