建築条件付土地・売建て購入の成功・失敗・販売側の事情の実例と対策を建築士が解説

建築条件付土地・売建ては土地の購入と注文住宅が同時に手に入る便利な家づくりに見えます
けれどもそこにはあなたを待ち構える落とし穴があるかも知れません
建築条件付土地・売建ての購入を検討されている方には成功例や失敗例そして販売側の事情を知ったうえで契約に進んでほしいと思います



sponsored link


建築条件付土地・売建の意味と売り手の気持ちを考えてみる

建築条件付土地・売建てとはどんなものでしょう。確認していきましょう

建築条件付土地・売建とは?

家を建てようと考えて一番初めにすることは

新聞に入ってくる土地建物のチラシを見る事だったりします

チラシには「建築条件付土地」と書いた土地が有ります

土地だけの販売よりも格安になっているので気になりますね

 

売建は「土地」を売るのですが「指定する施工業者」と「期限内に建築工事契約する条件」が付くので「条件付土地取引」となります

土地に建物を付けて販売するのですから「建売」みたいですね

「建売」は建ててから売るのですが

「条件付土地取引」は売ってから建てるので「売建」とも言われています

販売側の土地を高く売るための仕組みとして考えられた事がルーツです

そのため沢山の制約があったりもしますので

注文住宅ではなく建売の変形と考えたほうが良いとも言われます

購入者から見た建築条件付土地・売建ての意味

建売住宅が既に建てられた住宅を購入するのに対して

売建は基本の設計図が有りそれに対するある程度の設計変更が可能です

そのため家族のニーズにあった家づくりができる可能性があるというメリットがあります

お客様に喜んでいただくだけの目的で「売建」が有るのでしょうか?

実は販売する側にこそメリットがあるのが「売建」です

建築条件付土地・売建の売り手側のメリット

視点を変えると売り主の手の内が透けて見える

家づくりをお考えの方にはあなた自身からの視点だけでなく

土地や家を建てたり販売する側からの視点でも考えてみる

ことをお薦めしています

販売側の立場になって考えるのは難しいかもしれません

ただ聞いてしまえばそんなものかと分かります

「敵を知り己を知れば百選危うからず」です

建売にするか売建にするかは販売の見込みで考える

建売・売り建ての図面のお手伝いするという幸運に恵まれました

4区画分譲のうちの2棟でA棟とB棟と呼んでいました

始めはA棟が建売でB棟が売建でした

その後の営業会議でA棟が売建にB棟が建売に変更になりました

 

不思議に思ったので

「売建にするか建売にするかどこで決めるのですか?」と聞いてみました

すると「建ててすぐに売れそうな方を建売にする」という回答でした

土地を仕入れて造成して建物を建てて販売するのが不動産屋さんの建売販売です

大きな資金を投入する投資ですからできるだけ金額を少なくできるだけ早く回収したいわけです

自信を持って売れると思えるものは建売にして

自信のないものは売建にするという事なんですね

売建にしなければならない物件

売建にしなければならない物件はどのようなものでしょうか?

一言で言えば「売れ筋から外れたものです」

 

仕入れた土地を区画して見ると条件の悪い土地や

土地の大きさが若干大きくて価格が高くなってしまうような区画が出来てしまいます

そのような区画には建物を建てないで投資額を抑えておいて

売建で確実に売れる状況にしてから建物を建てるという事です

不動産屋さんの気持ちを読んでみる

不動産屋さんの気持ちが少しお判りになりましたでしょうか?

それが分かると

設計変更の打ち合わせの回数を制限したり

3か月という間取り検討期間を決めたりする

不親切なルールの意味が分かります

 

あなたのほかにも購入希望者がいる場合は強気に出て

そうでない時にはお客様を逃がすまいと思いながら悟られないようにしたり

担当者の言動から垣間見える事があると思います

土地が格安に見える仕組み

土地と建物を抱き合わせで販売する目的は

土地と建物の合計で利益を出せばよいのですから

土地の見かけの価格をを安くする事が可能です

 

土地に関しては路線価などで相場が決まっているので

大きな利益を計上することは出来ません

それならば建築で利益を出せばよいと考えるのは当然の事です

 

建物だけに関して言えば注文住宅と同じ価格でも

売建の方がローコストに仕上げていると考えられます

 

だいたいの仕組みはお判りいただけたでしょうか?

 

建築条件付土地・売建で買ってよいものと悪いものの見分け方

2019年の後半に東京都下の3件と大阪郊外の2件と奈良県と九州にそれぞれ1件

合計7件の売建物件の間取り作成・相談を依頼されました

そのうちの1件が先ほどの売り手の方からのご依頼でした

間取りの作成に関してはいつもの仕事ですが

土地の販売元や工務店とのやり取りの相談ごとに割いた時間が

少なくありませんでした

その中で気が付いたのが建築条件付土地・売建で上手く行くケースと

上手く行かないケースにはある程度の法則性があるという事です

工務店・ハウスメーカーの能力は測りやすい

インターネットで間取り作りの仕事をやっていると

沢山の工務店・ハウスメーカーのホームページを見ることになります

売建物件のご相談でも販売元の不動産屋さんと施工する工務店・ハウスメーカーの

会社のホームページを見ることになりました

不動産屋さんのホームページは見慣れてないので良く分からないのですが

工務店・ハウスメーカーのホームページでは

上手く行く売建と上手く行かない売建で明らかな差があることに気が付きました



sponsored link


買ってはいけない危険な売建の施工業者は弱小工務店

初めに最悪のケース2件をご紹介します

既存擁壁のある売建1

擁壁崩壊
擁壁崩壊

引用:土のうた様よりお借りしました

Nさんのケース

駅に近くて便利な売り建て物件

古い家を取り壊して二区画に分割して分譲した物件です

元の敷地がやや南北に長い土地だったのでとても細長い敷地になっています

 

信じられない位の価格で購入できるとか

Nさんは不思議に思って「なんでこんなに安いのですか?」と聞いてみたそうです

「親戚に頼まれて売るので安く売れるのです」というのが不動産屋さんの回答だったそうです

不動産屋の友人の話

不動産屋の友人との話を思い出してその話をさせていただきました

その話とは

「不動産に出物、格安物件は無いって本当?」と聞くと

「本物の格安物件があれば自分で買って転売する、不動産屋だから」ときっぱり

「格安に見える物件は何かあると考えたほうが良い」とも

その時に思いました

「なるほど仕入れが安くても普通の価格で売ればより大きな利益になる」

誰もが分かるあたりまえの事です

ところがです

「他にはない破格の物件をあなただけに」

「これを逃したら損をします」

「他にも引き合いがあります」

と畳みかけられると

私にも断る自信はありません。

格安にしなければならない理由

Nさんはすっかりその土地と価格に魅せられている様子でした

その敷地には高さ2m以上の擁壁が有りました

既存の擁壁でも敷地を購入して所有物となると

万が一の事故があった場合には所有者の責任になります

上の擁壁崩壊の写真は別件ですが

きちんとチェックしないといつこうなるか分からないのが現実です

 

売り建ての販売元は不動産屋さん、建築工事は地元でも無名の工務店さんでした

一応ホームページはあるものの

代表者の挨拶も、施工事例も、保証事項も必要な記載が一切ないというものでした

間取り図を拝見すると見ただけで熱意がないことが分かる内容

このまま進める事には気が進みませんでした

擁壁の検査済み証が無いのは瑕疵の恐れ

そこで「既存の擁壁の確認申請と検査済証が有るかどうかを確認してください」

とお願いしたところその通りに聞いたそうです

すると

「そんな事を言う客には土地は売らない」と言われその通りになったという事です

よほど急所を突いた質問だったようです

Nさんは少しがっかりしたようですが

瑕疵のある土地を購入しないで済んだことでホッとしました

既存擁壁のある売建2

擁壁のある敷地
擁壁のある敷地

Mさんのケース

間取り作りのご依頼で敷地の様子を見て少しの間「ムムッム」となる敷地でした

北側斜面、旗竿敷地、敷地内に電線が通っていて

北側隣家との間に既存の2m位の擁壁

南側隣家との間にも1.5mの擁壁

敷地内の勾配を解消するために1m位の擁壁を

敷地内に作るという計画

違法ではないが怪しい擁壁

建築指導課OBの専門家「建築チェックの匠」のtakumiさんに聞くと

「建築基準法上はギリギリ不可ではない」と判断されるようですが

「地域によっては不可とされることもある」という計画です

個性的なリクエストの間取り

間取りに関してのリクエストが個性的なお客様で

工務店さんとの打合せの前日の晩に

「やっと納得できる間取りができました」

と喜んでいただけました

工務店の塩対応

その後連絡が無かったので進捗状況をお尋ねしたところ

工務店の担当からひどいことを言われたようでした

 

いくつものアイデアを盛り込んでありましたので

良い家づくりをしようと思う工務店であれば

お客さんの満足のために取り入れる要素はあったはずですが

お客様の意向を聞く気は全くないと言う事のようでした

 激安、塩対応、擁壁は要注意

上記の2件の事例は

とにかく近隣の土地価格よりも激安という事でした

そして工務店も木で鼻をくくったような対応しかしてくれない

という共通する状況がありました

そして擁壁があることも共通しています

土地価格が異常に安い物件には瑕疵がある恐れ

既存の擁壁に関して確認申請書と検査済証が無い場合には

土地として瑕疵があると考えられます

土地の価値にふさわしい価格

土地の価値にふさわしい価格が

一見「激安」に見えるだけと考えるべきだと思います

 

住宅を求めている方の多くは

擁壁に関しては良く分からないし興味もないというのが現実です

危ない売建を掴まされないためにちょっとだけ意識を向けてください

日経アーキテクチュアの記事を引用させていただきます

日経アーキテクチュア

 コンクリートで出来ているからといって安心できない。鉄筋が入っておらず、十分な強度を確保できていない事例も少なくない。そもそも、工作物申請が不要な高さ2m未満の擁壁は通常、検査済み証がない。2m以上の擁壁でも、古い造成地では検査済み証がないことも珍しくない。構造計算書など強度を示す資料がなければ、「強度なし」を前提に設計しなければならない。

 敷地に既存擁壁があったり、既存擁壁に接していたりしたら、まずは役所で既存擁壁の検査済み証を確認し、擁壁の構造や強度などを確認する必要がある。そのうえで、現地で擁壁を目視確認すべきだ。

 構造耐力上の危険性は目視である程度は推測できる。擁壁に大きなひび割れがあれば、無筋コンクリートの可能性がある。水抜き穴がなければ、雨の日に雨水がたまって水圧が擁壁にかかる。前述した増し積み擁壁ならば大きな土圧がかかっていると予想できる。

 

しっかりした工務店は危ない売建は請け負わない

これらの情況を一歩引いて考えると

しっかりした工務店は危ない売建は請け負わない

という事なのだろうと思います

買い手の方が上手のケース

Oさんのケース

売建の基本の図面から大きく変更する事を希望しているお客様から

間取りの新規作成のご依頼を受けました

工務店の建築士さんとの打ち合わせは3回

工務店の建築士さんとの打ち合わせは3回という決まりです

1回目の打ち合わせの後に出てきた図面があまりにも期待したものと食い違っていたので

3回の打ち合わせでは到底納得できるものにはならないと判断されました

 

2回目の打ち合わせでは

「家族の希望事項をまとめるとこのようになります」と

当方で作った間取りを提出しようと考えそのようにされました

愚図る工務店の建築士

グズる子供
グズる子供

担当の建築士が間取り図をみて

「他の建築士に頼むのなら設計はしない」と言い始めて

間に立った不動産屋さんの担当者がオロオロしている

という連絡が入りました

 

住まい手の希望をまとめたもので設計図では無いと言い包めて

その場は事なきを得ました

 

自分の仕事に誇りを持つ人間であれば

お客様を満足させるために全力を尽くすべきだと思いますが

その後もグズグズ言ってきている様子でした

社長への直談判をお薦めする

良い家づくりにするためには

仕事の流れを施主側のペースにしなければなりません

工務店の社長に会って話をするようにお話しました

 

強気に出る事をお薦めしたのは

・一般的な建売の1.5倍ほどの敷地面積で簡単に売れないだろうという見込み

・間取り作成に時間がかかってもせっつかれることが無かった

このことから競合する買い手が無いと判断できたからです

 

また施工会社の規模や内容がしっかりしていて

ホームページの「代表の挨拶」にはお客様を大切にする気持ちが表明されていましたので

信用するに値すると感じていました

対応の良い工務店

残念なケースを先に見てきましたが多くの売建では問題なく進んでいるのだろうと思います

東京都下の2軒の工務店さんは設計変更に前向きで良いものを作ろうという

意志が感じられとてもスムーズに進みました

2階リビングに果敢に挑んだ工務店

10件ほどの建売が並ぶミニ開発の物件

こだわりの強いご夫婦で「2階リビングの住宅にしたい」と希望を伝えると

工務店の建築士さんも前向きな対応で設計を進めてくれたそうです

 

「そもそも2階リビングで良かったのか確認したい」というご相談でした

日影チェックの動画を作成したところ良い状況であることが確認できました

他にも細かなチェックやアドバイスもさせていただきました

 

塩対応の工務店を経験しているのでどのように対応されるか注目していましたが

変更や相談のたびに丁寧な対応をしてくれたのでお客様もとても満足されていました

 

これがあたりまえの対応なのだと思いますが

塩対応が続いただけにホッとしました

 

1階LDK 2階寝室、子供室+水廻りの売建

建売屋さんはどうしたら一般受けするかを考えるプロですので

スタンダードの物件には強いのですがちょっとイレギュラーな物件には

怪しかったりします

ご依頼を受けて作成した間取りは

1階LDK 2階寝室、子供室+水廻りのプランになりました

 

工務店さんはその間取りに対して掛け合いのようにアイデアを乗せてくる

超前向きな対応をしてくれました

おまけのようにロフトを付けてくれたのですが

外観が尖がった感じになりすぎたので

遠慮なさるようにお勧めしました

ステキな工務店の建築士さんもいるのですね

 

この物件に関してはとても大切なメッセージが含まれていると思います

下の記事をご覧ください

26坪2LDK+和室 丸テーブルにこだわった2階水廻りの売建住宅

地元密着の工務店さんは売建でも手抜きが無い

東京都下の前向きな工務店さんは2件とも地元密着の工務店さんでした

売建でも手抜きが無い建物を提供することで

継続した運営ができているのだろうと思います

 

最も重要なのは工務店の会社の姿勢

十人十色の言葉通りに関係した全ての物件に

それぞれの担当の方、設計の方の個性と

その奥にある「会社の姿勢」がしっかりと反映されていました

良い工務店を選ぶことが良い売建を選ぶことになります

良い工務店かどうかはどんな人がどんな気持ちで会社を経営しているか

良い工務店かどうかは会社のホームページの

「代表の挨拶」や「会社の方針」といった記事で表明される

どんな人がどんな気持ちで会社を経営しているかを見ると

伝わって来る物が有ります

 

間取り相談のご依頼は「思うように進まない」というお困りの方からのものです

多くの方が相談の必要もない状態で上手く行っているのだろうと思います

大手のハウスメーカーやパワービルダーの売建物件に関しての相談は

経験していませんのできっと安心なのだろうと想像します。

まとめ

家づくりは上手く行くとは限りません

思うように進まなくても

人生すべてに失敗したという事ではありません

「振り返ればあの時上手く行かなかったから今の幸せがあるんだね」

と言える時が必ず来るものです

「諦めない限り必ず成功する」という言葉もあります

思うように行かないのは考え方を変えるチャンスでもあります

あなたの家づくりが上手く行くことを願っております

 

この記事を書いた人

atoriekojima