日当たりシミュレーションの結果を依頼者さんに報告すると
「今回の設計では日射取得が十分ではないことが分かりました
残念ですが今からの設計変更は無理なので諦めます」というご回答
残念なお話です
「冬暖かく夏涼しい家」を求めてパッシブソーラーを計画する方が少なくありません
パッシブソーラーを売りにする工務店さんも少なくありません
そこには
・「省エネ」に対するニーズがある
・高断熱高気密の素材が供給されるようになった
という状況があります
その中で「日射取得する方法に関してのノウハウ」は専門家の領域にとどまり
パッシブソーラーを求める方・提供する方には浸透していないように思います
それは設計のスキルが必要で一朝一夕にできるものではないからです
ここではパッシブソーラーの重大要素の「日射取得」を理解し
コントロールする方法とツールを説明させていただきます
パッシブソーラーとは
パッシブソーラーの語源
パッシブソーラーの語源は「太陽光の有効利用」のうち
太陽光発電のように設備を用いて積極的に取りに行く能動的=アクティブな方法に対し
窓を太陽光が入るように開けて部屋を暖めるという受動的=パッシブな利用方法
という意味です
この「日射取得」の考え方を持たないものは「パッシブソーラー」とは言いにくいところです
パッシブソーラーの歴史
パッシブソーラーの歴史に関しては詳しくはありませんが
「心地よさ」を追求した吉村順三先生が源流で
OMソーラーの奥村先生から現代に続く流れは常に意識の中にあります
無断熱、アルミサッシという今では考えられないスペックの時代から
「冬暖かく夏涼しい心地よい家作り」の設計を心がけてきました
建築的には断熱の助けがないので
冬の寒さ対策は、ただただ日当たり良さに頼って、夕方に雨戸やカーテンを閉める
夏の暑さ対策は、庇などで日射遮蔽し、風通しを考える
という方法でした
それでも「冬なのに日が当たると暑くなって窓を開ける様だ」という家作りができました
そこにあるのは「日照を大切にする」「お日様に素直に」という事だったと思います
お日様に素直な家作り
お日様の気持ちを知る方法?
太陽を人格化してお日様と考えてみます
優しいお日様は寒い冬にも私たちを暖めてくれます
お日様から見ると家はどう見えるでしょうか?
やってみましょう「太陽目線外観冬至12時」になります
3Dマイホームデザイナーの日照シミュレーションで冬至12時の
太陽の位置を表示しそれに平行なアングルで表示しました
画角は超望遠の0度にしています
この家の場合1階の掃き出し窓や2階の腰窓から床が見えているので
お日様の温かさを受け取ることができています
これをケースAとします
日当たりが良いのに日射取得ができない家
こちらはどうでしょうか?
日射取得に有効な窓は
1階には掃き出し窓一つ
2階の窓はどれも小さめです
日照をあまり歓迎していないように見えます
これをケースBとします
お日様の気持ちにどれだけ素直か数値で表現?
ケース1:「お日様の温かさを受け取ることができています」や
ケース2:「日照をあまり歓迎していないように見えます」
というのはちょっと情緒的過ぎるので数値化を考えてみましょう
日射面の窓面積/壁面積で日射取得率を算出
「一目でわかる日照動画」で日照を見える化したように
3Dマイホームデザイナーで日射取得がどれくらいできているか
数値化して検討する方法を考えました
間取り図作成機能を利用して壁を1階に窓を2階に入力します
3Dマイホームデザイナーの間取り図作成機能を利用します
太陽目線外観図冬至12時間取り図の下図とします
これをトレースするように壁を1階に入力して窓を2階に入力します
すると建築面積に外壁面積が表示され延べ床面積に壁+窓の面積が表示されます
実際に計算してみましょう
日照有効率(%)を窓面積/壁面積x100とすると
(延べ床面積-建築面積)/建築面積x100になります
カースAの場合
(74.64-60.11)/60.11x100=24.2%となります
日照をあまり歓迎していないように見えるケースの場合
日照をあまり歓迎していないように見えるケースBの場合
(87.13-83.90)/87.13x100=3.7%
となっています
日射取得率の指標としての有効性
今回はケースAとケースBで日射取得率を求めました
日射取得ができているケースA は24.2%
日射取得できていないケースBは3.7%
となります現時点での仮説として
20%以上良好
5%未満要注意
といえるかもしれません
今後データを集めてより詳細な判断基準にしていければと思います
3Dマイホームデザイナーの作業手順
以下は作業手順ですので3Dマイホームデザイナーの技術者以外の方は飛ばしてください
比率を求めるだけであれば面積を㎡に合わせることもありませんが
一応面積が㎡表記に近いものになるような設定としています
【準備段階】
面積測定用外壁スタイルの設定
外壁スタイルの1階の壁の下の部分を1000としその上に高さ1000mmの幕板を付ける
【測定手順】
1、下図作成
・ファイル作成
立体入力まで完了した設計データを保存
タイトルに「日射取得」と加え別名で保存
・間取り画面で外壁スタイルを面積測定用に変更
・立体化>日照/斜線>所在地選択>冬至12時を表示
・アングルを太陽目線にする
画面表示を4面図に>画角を30度に
アングルを光源表示の太陽からの線に合わせる
・スナッピングツールで画像を保存
2、壁窓比算定
=間取り作成機能で外壁面積と窓面積を測定する
・3DMHDの新規作成を開く
・グリッド設定を1m
・畳サイズの設定>数値設定>ボックスに0.707と入力し1㎡=1畳とする
・いったん名前付けて保存
・下絵/CADから上で作った下絵を読み込む
・外壁幕板のh=1000を利用して寸法補正
・外壁の範囲よりも大きなサイズの四角形の敷地設定
・下図の外壁部分を1階平面として入力
畳数が表示される=外壁面積㎡
・下図の窓部分を2階平面として入力
・部屋作成をクリックして建蔽率/容積率チェックボックスを開く
建築面積に外壁面積が表示され
延べ床面積に外壁+窓面積が表示される
窓面積=延べ床面積-建築面積
日照取得面積比率(%)=窓面積/壁面積x100
問題点と今後の課題
今回は2件だけでの検証でしたが指標としての有効性に関して
ある程度の評価ができるものと感じています
今後の課題として
・冬至12時の太陽方位角、太陽高度の指標としての有効性
・他のケースのデータを集積して有効性を検証する
・他のソフトでより適切な方法があるか検証
・3Dマイホームデザイナーのより合理的な使い方
・省エネシミュレーションと組み合わせての有効性の検証
などが必要と考えています
まとめ
パッシブソーラーが定着して一般的で高度なものになってゆくためには
パッシブソーラーを建てたい人と
建てる人の意識の向上が必要だと考えています
・高断熱高気密だけでは不十分
・冬季の日射取得が重要
日射取得は設計に役立つ判断基準として「日射取得率」の考えを検討したい
データ収集などの今後の積み重ねが重要だと考えております
日々「日あたりシミュレーション」や「間取りのセカンドオピニオン」の作業に追われていて
広く情報を見る余裕がありません
節穴から世界を見ているような滑稽なものかもしれません
手元にあるツールだけで考えております
日射取得を向上する設計の考え方やツールとして
より有効なものをご存じの方がいらっしゃいましたらご教示くださいますよう
お願いいたします。